植物や藻、一部の細菌たちは大気中の二酸化炭素と水を使って「光合成」を行います。
光の力を化学的な力に変換する光合成では、その途中で発生した酸素を副産物として大気中に放出します。
私たち人間を含む動物は、大気中の酸素を取り込み、大量のエネルギーを効率よく作り出すために酸素を利用しています。
酸素を利用するエネルギー産生はとても効率が良く、少量の原料から多くのエネルギーを生み出すことができます。
高等生物が体を維持して生命活動を行うには、酸素は必要不可欠なものなのです。
酸素の体への取り込みは「呼吸」によって行われます。息を吸えなくなることは不安、恐怖という感情が生まれます。これは本能的にわかっているのか、成長とともに学んで知るのか、その両方なのかは分かりません。
しかし息ができなくなれば“死ぬ”ということは、誰しもが知っていることかと思います。それだけ重要な生命活動ですので、あらゆる生体防御反応を駆使して最悪の事態を回避するように人間はできています。
そのひとつがこの項で取り上げる「息苦しい」という症状です。
息苦しいという症状は命に関わる可能性が高いともいえます。息苦しさにも様々な原因があり、中には緊急を要するものもあるのです。
そうした視点から「息苦しい」という症状について掘り下げていきましょう。
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目次
息苦しさが起こるメカニズム
「息苦しい」という症状が現れたということは、体がもっと酸素を必要としている状態と置き換えることができます。
私たちは「呼吸」によって体の中の酸素と二酸化炭素のバランスを一定に保っているのですが、そのバランスが崩れたときに息苦しさという症状が現れてきます。
さまざまな障害や原因によって体内の酸素濃度が低下している状態でも息苦しさは生じます。
逆に酸素濃度は正常でも、二酸化炭素の濃度が高すぎる状態でも息苦しさが生じます。
酸素と二酸化炭素の濃度は、主に「大脳皮質(大脳の表面部分)」が観察をしています。
生命の維持にとって重要な情報ですので、大脳のかなり広い部分が働いているとされます。
運動をして体がより多くのエネルギーを必要としたときには、もちろん酸素も多く必要となります。
その情報をいち早くキャッチして呼吸の速度を速めたり、心臓の動きを速めたりすることで対処しています。
運動後に起こる「息苦しい」という症状は、ある意味で正常な反応ともいえるのです。
ただし、あまりにも極端な息苦しさや疲れやすさは、何かしら別の原因も考えられますので注意しましょう。
このように正常な反応も含まれる息苦しさではありますが、多くの場合安静にしていることで徐々におさまっていきます。
では息苦しいという症状がそのまま続いたとき、私たちの体はどうなってしまうのでしょうか。
ご存知の通り息ができなくなれば、早い段階で“死”に直結する事態へと進んでしまいます。
“死”という段階に至らなかったとしても、息苦しさは更なる重い症状へと進行することがあります。
そのひとつが血液の状態が変化してしまうことです。
血液は弱アルカリ性の性質で保たれていて、そのPh(ペーハー:酸塩基濃度)は簡単に崩れることはないほど頑丈に守られています。
このバランスを酸塩基平衡と呼びますが、バランスを崩すひとつの原因として呼吸による酸素と二酸化炭素の濃度が挙げられます。血液のPhが崩れて酸性やアルカリ性に寄ってしまうことで、非常に多くの深刻な症状を引き起こします。
様々な原因で起こる息苦しさですが、呼吸性アシドーシスや呼吸性アルカローシスと呼ばれる状態をもたらしかねません。
問題となる息苦しさは安静にしているときに感じることもありますので、様子を見るべきか判断に迷う際には、なるべく早い、受診をお勧めいたします。
息苦しさを感じる病気とは
「息苦しい」という症状は、体が必要とする酸素を取り込むことに問題が起こっている可能性が高いです。
私たちは体内に酸素を取り込むために呼吸を行っています。
呼吸で吸った酸素はどのようにして体に入り、その後どのように処理をされていくのか。
そうした部分を知ることで、息苦しいという症状について深く知ることができるかもしれません。
体内に酸素を取り込む
空気中にはほぼ一定の割合で酸素が含まれています。
しかし人間は水中に溶けている酸素をうまく利用できません。
また酸素の濃度が低下した環境では、より多くの酸素を必要とするために“息苦しさ”を感じます。
空気は気管から肺へ
私たちが吸った空気はノドから気管を通って肺という臓器へ流れていきます。この通路が何かしらの原因で狭まったり、詰まったりする場合には息苦しいという症状が出ます。
原因はさまざまですが、「気管支喘息」や「気管支炎」、「間質性肺炎」などによっても起こることがあります。
また食べ物が誤って気管の方へと流れてしまう誤嚥(ごえん)によっても、咳と共に息苦しさが出るでしょう。
吸った酸素は肺で交換される
肺の血管では、流れてきた血液に含まれる二酸化炭素を取り出して、代わりに酸素を渡します。
赤血球という細胞は自分の内部に酸素を結合させて、全身へ酸素を運んでいます。
肺が損傷を受けたり機能が低下すると、二酸化炭素を取り出したり、酸素を渡したりすることがうまくできなくなります。
肺がんや肺炎、肺に水が溜まる「肺水腫」、肺に穴が開いてしまう「気胸」などによっても息苦しいという症状が出ることがあります。
また、赤血球が酸素をうまく結合させられなくなってしまうこともあります。「一酸化炭素中毒」などでは息苦しさと共に「意識喪失(気絶)」をすることがありますので注意しましょう。
「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」では気管支炎と共に肺の機能が低下しているので“息苦しさ”を伴います。
呼吸は胸部の筋肉を動かす
呼吸をする際には、肋骨やみぞおちのあたりにある筋肉を動かして、息を吸ったり吐いたりという行動をしています。
筋肉を動かすための命令は、脳から脊髄を通って筋肉へと届いています。
この経路に障害が出たり、筋肉をうまく動かせなくなったりする状況では息苦しさを伴います。
事故などによる「脊髄損傷」、神経と筋肉の障害では「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」や「重症筋無力症(MG)」などの病気によっても起こることがあります。
呼吸は脳が司る
呼吸はほとんどの場合で特に意識しなくても、息を吸って、息を吐いて、と繰り返し行っている行動です。
この行動は脳の中でも延髄という部分を中心にした呼吸中枢と呼ばれる部分が管理しています。
大脳の表面では体の中に酸素がどの程度あるのか、調整が必要なのかを判断して、延髄の方へ情報をフィードバックしています。
これらの部分に何かしらの問題が生じた場合には、息苦しいという症状で危険信号を発することがあります。
たとえば「延髄梗塞」や「クモ膜下出血」という病気では、呼吸の中枢が障害を受けて呼吸がうまくできずに呼吸困難に陥る可能性があるのです。
また、ストレスなどが原因で呼吸の調整が一時的にうまくいかなくなることもあります。「過換気症候群」では発作時に呼吸の速度や空気を取り込む量のバランスが崩れて息苦しさをきたすことがあります。
息苦しいという症状は、体からの危険信号としては深刻な状態に近いと考えた方が良いでしょう。
少しばかり酸素が足りない状況では“貧血気味”、“ボーっとする”、“力が入りにくい”、“手足がしびれる”などの症状から体調の変化が始まることもあります。
それらの症状から息苦しさに繋がることもありますし、息苦しさが同時に起こることもあります。
息苦しい状態は恐怖心や不安感を強く伴う症状ですので、適切な処置が必要な症状だと考えましょう。
自宅での対処方法
自宅で安静にしているときや、運動をしていないときに息苦しさを感じた場合、どのように行動すれば良いかをお話します。
基本的に何かしらの持病を持っている方が息苦しさを感じた場合には、なるべく早く受診することや、場合によっては緊急搬送が必要なこともあります。
息苦しさは絶対に放置をしてはならない症状のひとつです。
何やら息苦しい
自宅で息苦しいという症状が出たときには、まず室内の換気をすることが最優先となります。
特に他の家族なども共に息苦しさを感じている場合には、室内の酸素濃度の低下や空気に何かしらの問題がある可能性もあります。
過呼吸で息苦しい
強いストレスや疲労、緊張などによって過呼吸が起こり、「過換気症候群」という状態になることがあります。
健康な方でも、わざと呼吸を早く繰り返すことによって起こる症状です。
まずは安静にして、場合によっては鼻や口に紙袋などをあてがって呼吸することで改善される場合もあります。
しかし決して自己判断はせずに、医師の判断を仰ぎましょう。
基礎疾患があって息苦しい
「閉塞性肺疾患(COPD)」などの病気をお持ちの方は、短時間の作業や歩行によっても息苦しさを感じることがあります。その場合は医師の指導に基づいて対処することが重要です。
息苦しさが増して来たならば、なるべく早く受診して呼吸の状態を改善する治療を進める必要があるでしょう。
緊急性がある状態とは
息苦しさの中には安静時に突如発生するものや、命に関わる危険性のあるものがあります。
息苦しさは日常生活ではあまり遭遇しないものですので、息苦しいという状態が続くことは危険性が高い状態ともいえます。
何かしらの持病をお持ちの方が息苦しさを訴えた場合や感じた場合には、ためらうことなく救急搬送を選択してください。
一例ではありますが、以下の場合には緊急を要する可能性があります。
絶対に放置をせず次の行動へうつりましょう。
突然息苦しくなった
もしも喉や胸を押さえるような仕草が見られた場合には、何かの異物が喉に詰まった可能性もあります。
すぐに救急車を呼んで、到着までの間にも異物の除去を試みましょう。
また人工呼吸や心臓マッサージなどの準備をしましょう。
他にも、肺に穴が開く「気胸」や肺の血管が詰まってしまう「肺塞栓症」などの可能性もあります。
いずれにせよ一刻を争う事態だと考えてください。
激しい痛みを伴っている
喉の炎症などピリピリした痛みも問題ですが、たとえば胸や頭、首、目の奥などに強烈な痛みが走った場合には一刻を争う可能性があります。
「心筋梗塞」や「脳卒中」などの病気で起こることもあります。体をなるべく動かさないようにして、おちついて救急車を呼びましょう。
喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)といった音がしている
「気管支喘息」の増悪や、「誤嚥性肺炎」など、さまざまな病気によって空気の流れがうまくいっていない可能性があります。
咳を伴うこともありますが、咳ができないほどの重い症状ということも考えられます。すぐに救急車を呼んで、到着までは人工呼吸ができる準備をしておきましょう。
呼吸不全の持病を持っている
神経や筋肉の病気などで呼吸をする筋肉の力が弱まって、その結果“息苦しい”症状が出ることもあります。
たとえば「重症筋無力症」をお持ちの方が息苦しさを訴えた場合には、速やかに救急車を呼びましょう。
ストレスや感染症などが引き金となって「クリーゼ」という発作を起こした場合には、命に関わる事態となってしまいます。
医師から処方されている薬を自己判断で投与することは危険性が伴います。救急搬送を最優先にしましょう。
息苦しさは様々な原因によって引き起こされる症状ですが、基本的にはあまり良くない状況だといえます。
命を救うことが最優先です。救急車を呼ぶことを決してためらわないでください。
特に持病をお持ちの方が息苦しいと訴えた場合には、何かしらの原因で病気が悪化した可能性も否定できません。
持病を持っていない方であっても、痛みや圧迫感、高熱、意識障害、ふるえなどの症状が伴っている場合には命の危険性があります。決して自己判断をせずに、救急搬送を第一の選択肢として考えましょう。
1分1秒でも早く病院に到着できれば、それだけ命を救える可能性も高くなります。また素早い治療は後遺症なども少なくて済む傾向にありますので、速やかな対処が必要だとお考えください。
著者 Writer
- 巖本 三壽(いわもと さんじゅ)
- 昭和大学 医学部 卒業後、昭和大学 小児科に入局。昭和大学の医学部、薬学部で基礎医学や病態・薬物治療の教鞭をとる傍、小児・内科診療の医療に携わる。2023年、家本循環器内科院長に就任。
地域の皆様にとってなくてはならない存在でありたい、いつでも必要とされる存在でありたいと願い、皆様が ココロもカラダも健康で、幸せな生活を送ることができるよう、地域に貢献いたします。
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